企業の事業活動において、空調にかかるランニングコストやピーク時の電力消費量は、利益に影響する重要な経営課題です。特に既存設備の更新時期を迎えた拠点では、電気料金の上昇や受変電設備(キュービクル)の容量不足が大きな懸念となっています。
こうした課題の解決策として注目されているのが、ガスを動力源とする「GHP(ガスヒートポンプ)」です。本記事では、GHPの基本的な仕組みや電気式(EHP)との違い、デマンド値の抑制効果、初期費用やメンテナンスのポイントまで、施設管理者が知っておきたい情報を解説します。
【この記事で分かること】
・ GHP(ガスヒートポンプ)の基本原理とEHP(電気式)との違い
・ デマンド対策やキュービクル容量削減といったコスト面での導入メリット
・ GHPの導入に適した施設環境や初期費用・メンテナンスの注意点
ガスヒートポンプとは?
電気代の高騰やデマンド対策に悩む企業の間で、ガスヒートポンプ(GHP)への注目が高まっています。GHPは、ガスエンジンを動力源として冷暖房を行う空調システムです。
本章では、GHPが省電力を実現できる理由や、ガス空調ならではの仕組み、冷房時の動作原理について解説します。
ガス空調(ガスヒートポンプ)の特徴
ガス空調の主な特徴は以下の通りです。
- 冷暖房能力が高く、立ち上がりが早い
- 暖房時も安定した温風を供給できる
- 電気の使用量を大幅に抑えられる
GHPは、電気の使用量を電気式空調の最大約10分の1に抑えられるため、夏・冬の冷暖房ピーク時における事業所全体の電力需要の偏りをなくせます。その結果、基本料金を決定するデマンド値を抑制し、ランニングコストを削減することが可能です。
さらに2026年現在、環境性に優れたe-methane(合成メタン)やバイオガスの活用による、将来的な脱炭素(GX)対応への適応力も注目されています。
ガスヒートポンプの仕組みと動作原理
ヒートポンプとは、空気中の熱を集めて移動させることで冷暖房を行う技術です。冷媒を圧縮・膨張させ、気化熱や凝縮熱を利用して温度をコントロールします。

基本構造自体は電気式と共通ですが、GHPは冷媒を循環させるための圧縮機(コンプレッサー)を、モーターではなくガスエンジンで駆動させます。ガスを燃焼させてエンジンを動かすことで、電力消費を大幅に抑えながら冷暖房を行える点が特徴です。
なお、自動車のエンジンと同様の構造であるため、定期的なオイル交換やプラグ交換などの保守メンテナンスが必要となります。
ガス冷房の仕組み
ガス冷房では、以下の流れで室内の温度を調整します。
- 室内の熱を奪った冷媒を室外機へ送る
- 圧縮機(コンプレッサー)で冷媒を高温・高圧状態にする
- 凝縮器で熱を屋外へ放出し、冷媒を液化させる
- 膨張弁で冷媒の圧力を一気に下げ、気化しやすい状態にする
- 再び室内機へ戻して気化させることで、室内の空気を冷やす
電気式(EHP)はこの圧縮工程で膨大な電力を消費しますが、GHPはガスエンジンの力で圧縮機を動かします。そのため、このサイクル内で電力を消費するのは、送風ファンや制御基板などの一部のみに留まります。
夏季の昼間に集中する冷房用の電力消費を抑え、基本料金の上昇を防ぎながら、広範囲の空間を効率的に冷却できます。
ガスヒートポンプエアコンの役割
ガスヒートポンプエアコンは、単なる冷暖房機器の枠を超え、企業のエネルギーマネジメントを最適化する戦略的設備としての役割を担います。空調の動力源をガスへシフトさせることで、電力への過度な依存から脱却し、電気とガスの「ベストミックス」を確立できます。
これにより、激変する電気料金の価格変動リスクや、電力逼迫時における操業停止リスクを回避できる仕組みとなっています。
また2026年現在、空調を稼働しながら同時に発電を行うモデルや、災害時に単独起動できる「BCP(事業継続計画)対応モデル」の重要性も高まっている状況です。
GHPとEHPの比較
自社に適した空調設備を選ぶためには、普及率の高い電気式(EHP)との違いを正しく把握する必要があります。両者の動力源の違いを整理したうえで、「導入・運用コスト」や「冷暖房能力」の違いを比較します。
EHPとは
EHPとは、電気モーターを動力源としてコンプレッサーを稼働させる、最も一般的な空調システムです。

家庭用から業務用まで広く普及しており、製品の選択肢が豊富で、初期費用を抑えて導入できる点が特徴といえます。また、エンジンを搭載していないため、振動や騒音が小さく、複雑な保守メンテナンスが不要です。
一方で、冷暖房の稼働が電気使用量に直結するため、ピーク時には事業所全体の電力需要を大きく押し上げかねません。大規模施設で複数台を同時稼働させる場合、基本料金が上昇するだけでなく、高圧受変電設備(キュービクル)の増設や契約容量の変更が必要になるリスクが伴います。
GHPとEHPの能力・コスト比較
| 比較項目 | GHP(ガス式) | EHP(電気式) |
|---|---|---|
| 動力源 | ガスエンジン | 電気モーター |
| 消費電力 | 非常に少ない | 多い |
| 暖房立ち上がり | 早い(排熱利用) | やや遅い |
| 初期費用 | 比較的高い | 比較的安い |
| メンテナンス | エンジンの定期保守が必要 | 簡易的 |
初期費用は、構造が複雑なGHPの方が高額になる傾向があります。しかし運用コストでは、GHPは消費電力をEHPの約10分の1に抑えられるため、空調負荷が大きい施設ほど、電気代の削減分によって数年以内に初期費用の差額を回収できる可能性があります。
能力面でも違いがあります。
EHPは外気温が低下すると暖房能力が低下し、一時的に暖房が停止する場合があります。一方、GHPは寒冷地でも立ち上がりが早く、中断の少ない強力な暖房が可能です。
比較する際は、以下の点がポイントになります。
- 初期投資の安さと管理の手軽さを重視するならEHP
- 冬場の暖房性能やピークカット効果を重視するならGHP
GHP(ガスヒートポンプ)導入のメリット
GHPへの切り替えは、単に「電気代が安くなる」という表面的な変化だけではありません。ここでは、導入によって得られる4つの経営上のメリットを解説します。
消費電力の大幅削減とデマンド対策
GHPの大きなメリットは、空調由来の電力消費を大幅に削減できる点です。高圧電力契約では、過去1年間で最も電力を使用した30分間(デマンド値)を基準に基本料金が決定します。
夏場の猛暑日にEHPを一斉稼働させると、デマンド値が上昇し、その後1年間の電気料金が高止まりする可能性があります。一方、GHPは空調稼働時の消費電力をEHPの約10分の1に抑えられるため、ピーク時の電力需要を低くコントロールできます。
このピークカット効果により、電力会社へ支払う基本料金を引き下げることにつながります。
キュービクルの容量削減によるコスト最適化
空調の導入や増設時、EHPでは施設内の高圧受変電設備(キュービクル)の容量不足が問題になる場合があります。容量拡張には、数百万から数千万円の設備投資や計画停電が発生する可能性も考慮しなければなりません。
一方、GHPは消費電力が少ないため、既存のキュービクル容量のままで空調を増設できるケースが見受けられます。
施設規模によっては、受変電設備そのものが不要な「50kW未満の低圧電力契約」に抑え、電気インフラの初期投資や維持費を削減できるケースもあります。
寒冷地でも安定する暖房能力
冬場の高い暖房性能も、GHPの大きな特徴です。EHPは外気温が低下すると室外機に霜が付き、その霜を溶かす「霜取り運転」のために暖房が一時停止する場合があります。
一方、GHPはガスエンジンから発生する排熱を冷媒の加熱に再利用する仕組みを備えています。この排熱回収システムにより、外気温がマイナスに達する寒冷地でも、霜取り運転による中断を抑えながら、安定した温風を供給可能です。
自立運転による停電時対応とBCP対策
自然災害による停電リスクが高まる中、GHPによるBCP(事業継続計画)対策への注目が集まっています。
停電対応型モデルは、内蔵バッテリーでエンジンを始動させるため、ガス供給があれば商用電力が途絶えた場合でも空調を稼働し続けられます。さらに、搭載された発電機から施設内へ給電できる「自立運転機能」も備わっているのが大きな強みです。
これにより、以下のような設備への電源確保が可能です。
- 照明
- 通信機器
- PCなどの業務機器
そのため、避難所となる施設や、操業を止められない工場・病院において、強力なバックアップシステムとして機能します。
GHPのメリットについて詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。

GHP(ガスヒートポンプ)のデメリットと懸念点
優れた省エネ性能を持つGHPですが、導入を検討する際には、ガスエンジンを搭載する構造ならではのデメリットも把握する必要があります。
ここでは、主な3つの懸念点を解説します。
導入時の初期費用の高さ
GHPは機器本体の構造が複雑なため、EHPと比較すると製品価格が高額になる傾向があります。また、ガス配管を室外機まで敷設する専門工事が必要となり、付帯費用も発生します。
ただし、高圧受変電設備(キュービクル)の容量不足を回避できるケースもあり、電気インフラ工事を含めた初期投資全体で比較すると、差額が小さくなる場合や、GHPの方が安く抑えられる場合も少なくありません。
そのため、機器本体の価格だけではなく、導入後の電気代削減効果を含めた投資回収年数を確認することが重要となります。
GHP導入費用を抑える補助金について、以下の記事で詳しく解説しています。

エンジン特有の保守メンテナンスの必要性
GHPはガスエンジンを搭載しているため、自動車と同様に定期的なメンテナンスが欠かせません。
主な交換部品には、以下のようなものがあります。
- エンジンオイル
- 点火プラグ
- エアクリーナー
一般的には、運転時間が10,000時間に達するタイミングで点検が必要です。
ただし、2026年現在の最新機種では、メンテナンス周期が「10年」にまで長期化したモデルも登場しており、管理負担は軽減されつつあります。突発的な故障を防ぐためにも、メーカーや専門業者と「定額保守契約(安心フルメンテナンス契約)」を締結し、年間保守費を固定費として予算化しておくことが重要と言えます。
ガス料金の変動リスク
GHPのランニングコストは、都市ガスやLPガスの価格動向に左右される点が懸念材料です。国際情勢などの影響でガス価格が急騰した場合、期待していた削減効果が小さくなる可能性があります。
ただし、このリスクは電気料金にも同様に伴う課題です。2026年現在では、エネルギーを電気だけに依存するリスクを避け、電気とガスを組み合わせる「二極分散」自体がリスク対策として評価されています。
対策として、ガス会社が提供する空調専用の特別割引料金プラン(ガス空調契約)の利用を前提に、事前シミュレーションを行うことが重要なポイントです。
GHP導入が適している施設と用途
GHPの導入効果を最大化できるのは、空調負荷が大きい施設や、災害時の事業継続が求められる建物です。
ここでは、代表的な3つの施設における導入理由を解説します。
大規模工場・製造業
大規模工場や製造業では、生産設備の電力使用量が大きく、空調設備に必要な電力容量の確保が課題となるケースが見受けられます。
- 課題
生産ラインで大量の電力を消費するため、空調に使用できる電気容量に余裕がない。 - GHP導入による効果
空調をGHP化することで、限られたキュービクル容量を生産設備の増強に活用できます。
また、広い空間でもガスならではの高い冷暖房能力を活かして効率的に空調でき、冬場の底冷えが厳しい現場でも排熱を利用した安定した暖房が可能です。作業環境の改善につながり、生産性向上にも貢献します。
病院・福祉施設
病院や福祉施設では、患者や利用者が快適に過ごせる環境を維持するため、安定した空調運用と災害時への備えが求められます。
- 課題
24時間365日の連続稼働が必要で、エネルギーコストの上昇が経営に大きな影響を与える。また、災害時への備えも求められる。 - GHP導入による効果
年間を通じた基本料金や電力量料金を削減できます。
さらに、停電時でも単独起動して空調を維持できる「BCP対応型GHP」を導入することで、非常時でも患者や入所者の環境を守ることができます。避難所としての機能も果たせる体制を構築し、施設の社会的信頼性向上にもつながります。
大型商業施設・オフィスビル
大型商業施設やオフィスビルでは、利用者数や建物の用途によって空調負荷が変化するため、柔軟で効率的な空調管理が重要となります。
- 課題
外気温や来客数によって空調負荷が大きく変動する。
また、テナント変更に伴う工事が発生する。 - GHP導入による効果
夏季の冷房ピーク時にデマンド値を抑制し、年間の管理コスト削減につながります。
また、テナントの入れ替わりや間取り変更による空調の増設・移設時にも、高額な電気インフラ改修工事を伴わず、ガス配管の調整によって柔軟に対応しやすい点がメリットです。不動産価値の維持とコスト削減を両立できる体制が整います。
まとめ
GHPは、電気ではなくガスを動力源とすることで、契約電力の基本料金を抑えるデマンド対策に優れた空調システムといえます。キュービクル容量の削減や、停電時にも稼働できるBCP対策など、多様な経営課題の解決に役立ちます。初期費用や保守費用を含めた中長期的なコストを算出し、自社に適した設備投資を検討することが重要なポイントです。
空調コストの削減やBCP対策に向けたGHP(ガスヒートポンプ)の導入なら、東亜ガス株式会社にご相談ください。LPガスの安定供給からガス機器の販売・メンテナンスまで、自社一貫体制で企業や施設の安定した設備運用をサポートいたします。
